視線

この間、家に帰ってきて扉を開こうとしたら、ちょっとした違和感を覚えた。
なんだろうなこの感じは、と思って辺りを見回しても何だか判らず、どこからか強い視線のようなものを感じたままだった。不思議だったが原因がわからないので家へ入ろうと扉の方へ向き直ると左手上方の壁に黄色いインコがとまっていた。
僕はギクりと目をひらいた。
どこも汚れていない黄色の羽根が、それがいましがた檻から逃げ出して来たばかりと思わせた。
はっしと壁にある小さな溝に足を引っかけ、こちらを見つめる小さな2つの目。
その視線に動きを止められた僕は、その時、鳥のまぶたが下の方から上へ向かって閉じることを知った。

生々しい質量が自分の方へ向けられているだけで、こんなにも息が詰まるものなのか。
2、3分見合った後、僕はなぜかインコを捕えようと手を伸ばした。
するとインコは速やかに飛び去って行った。
今、僕は大切な何かを取り逃がしてしまったんではないだろうか。
そんなことを考えた。